2014年08月03日

高橋長老の御教書 新編45

            ありがたいお話であるから正座して読むよ~に

新編45 車で送る

「長老、車で送っていただけません?」と声がかかった。見るとベテランの女性会員が3人こちらを見ている。練習が終わって帰宅しようとしている時だった。
「いいですよ」
 これまでも何度か彼女たちを送って行ったことがある。帰り道も分かっていて、たいして遠回りでもない。
「わあ、助かった。いつも送って下さるNさんが、ちょっと都合が悪くなって困っていたんです」
「どうぞ、乗ってください」
 私の車は小型のヴィッツで、大人が4人乗るといっぱいだ。楽器は各々の膝に抱えてもらう。
 私は、退職して以来、社会的つながりが無くなり、外部の人と口をきくことが極端に減ってしまった。日常の会話は、ほとんどすべてが妻との会話である。会話といっても、大部分は私に対する叱責と、それへのいいわけであるけれど…。それでも会話による緊張感は生活の節度を形作ってくれている。ところが、たまに妻が娘の手伝いに出かけると、私に話しかけてくれる相手がいなくなる。そんな時は、ほとんど一日中誰とも口を利かずに過ごすことになる。あったとしても、スーパーのレジ嬢と口をきく程度だ。
「○○円になります。袋はお持ちですか」
「持っているよ」
「ありがとうございました」
 これが、その日の会話のすべてなのだ。いくら私が孤独に強いとはいえ、この状況では孤影蕭然の思いは避けられない。しかも、友人は少なく家も遠い。もともと寡黙な質であるから、電話で長話という芸当は無理なのである。
 こんな事情であるから、愛好会の練習日は、私にとって貴重な社交の場なのだ。練習の合間とか、練習後の束の間の雑談、この間だけは私も社会的人間となる。車での送迎も、会員との社交を強化するチャンスである。これまで、いろいろな会員を車で送ってきた。Kさん、Uちゃん、М君などなど。普段、口をきいてもらえない若い人たちと親しく対話できるのは、こんな時しかない。内気な私としては、数少ないチャンスだった。もっとも、彼らとしては、世代の違う私と話を合わせるのは大変だったろう。
 今回は、比較的私と年代が近く、付き合いも長いので、会話には事欠かない。ベテランが相手では、刺激的な展開にならないのはやむを得ない。とりとめのない話ばかりだが、私にとっては貴重な時間だ。中身が無いなんてことは、問題ではない。
 ところで、会員の中で、これぞと思う相手と近づきになりたいと願っている彼(女)はいないだろうか。そんな時は「車で送ろうか」と持ちかけるのが一番だ。もしくは「車で送って下さらない?」と頼むのもいい。OKを貰えば、前途は開ける。車の中で親交を深め、相手との相性を確かめ合うことができる。この手でこれまで二組の会員が結婚した。送迎の時だけではなく、合宿とか行事での移動とかの機会でもいい。まあ、OKを貰えなくても、口を利くチャンスにはなるはずだ。
 えっ、そんなこと、長老から言われるまでもないって?…失礼いたしました。

漢字の読み方
寡黙な質  かもくなたち


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Posted by 静岡マンドリン愛好会 at 21:38│Comments(0)高橋長老の御教書
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