2012年07月25日

高橋長老の御教書 新編6

      ありがたいお話であるから正座して読むよ~に

新編6 呪われた合宿

 いつもはすいすい走るバイパスが渋滞している。合宿の集合時間には少し余裕を見て出発したが、こんなノロノロ運転は予想外だ。別に事故があったわけでもなさそうだし、工事をしている予告もない。原因不明の渋滞は不愉快だ。合宿に遅れるのではないかとイライラする。何かの呪いか。
 いつもは一時間弱で到着する菊川に30分遅れで着いた。幸いまだ少しは余裕がある。昼食をとって行こう。昨年利用したラーメン屋がいい。
 店に立ち寄り、あっさり味のラーメンを注文する。期待通りなかなかの美味である。
 あっ! 歯に被せた金冠が取れてしまった。こんな場面で予期しないハプニングが起きた。しかしどうしようもない。これから合宿だから、歯医者に行くわけにもいかない。口の中を洗って、月曜日まで我慢するしかない。朝から不愉快なことが続くが、これも何かの呪いなのだろうか。疑惑が強まってきた。
 小菊荘へは、左にコンビニがある交差点を右折すればいい。しかし、走れども走れども、それらしいコンビニがない。えっ、ここは旧小笠町の役場だ。さすがに行き過ぎだ。ともかく右折して、様子を見よう。うん、はるか先に小菊荘の横の照明塔が見える。よかった、少しだけ遠回りするだけで済みそうだ。
 しかし、これで今までの出来事が、私を合宿に参加させまいという呪いであることがはっきりした。そんな呪いをする人物はだれか。まず第一に考えられるのは妻である。。
「私が家のことで忙しいのに、好きなことばかりやっている」と常に私を非難している人物だ。しかし、妻に対する私の呪いはもっと強いから、私の方が勝っているはずだ。妻でないとすれば、愛好会の中にそんな人物がいるのかもしれない。実に不愉快だ。
 小菊荘に着いて練習場に向かう。呪いのせいか、心なしか足が重い。練習場に近づくにつれてどんどん足が重くなる。重い足を引きずって、やっとの思いで部屋に入り、肩で息をつく。あ~、ずいぶん息が切れた。あれくらいの階段は、今までは何ともなかったのに。これも呪いに違いない。
 練習の時間となり、指揮者の厳しい叱咤が耳に響く。
「もう一度。ギターだけ!」
 指揮に合わせて早いパッセージを引こうとしたら、突然右手の指が金縛りになった。タイミングは合っていたのに、指が動かないから弾こうにも弾けない。呪いもここまで来ると私の手に負えない。その後の練習の出来は、散々な状態となってしまった。
 会員の中に私を呪うような人物がいるのか、それとなく探ってみたが、男はみんな軽薄そうな顔つきだし、女性はみんな愛情あふれる表情である。誰も私を呪うほど切羽詰まった様子には見えない。しかし、本人はその気はなくても、潜在意識が勝手に呪うことがある。光源氏への六条の御息所の生霊がそれだ。誰か私を光源氏のように見たてて、嫉妬しているのだろうか。(自分でも有り得ないと思っています。反省)
 幸か不幸か、私は家の事情で二日目のお昼で帰宅させてもらうことになっていた。昼食を食べ、合宿の清算をして帰宅の途に就く。
 帰りの道中は、行きと打って変わって順調だ。一時間余で家に着いてしまった。合宿の呪いは、やはり妻が私をこき使うために、いつもより強力な生霊を放ったと考えるのが一番妥当のようだ。

漢字の読み方
叱咤       しった
六条の御息所 ろくじょうのみやすどころ
生霊       いきりょう

  


Posted by 静岡マンドリン愛好会 at 21:14Comments(0)高橋長老の御教書

2012年07月12日

高橋長老の御教書 新編5

     ありがたいお話であるから正座して読むよ~に

新編5 定演参加費

 定例の練習に行くと、「長老、定演参加費を払ってください」と会計役から迫られた。そういえば、何日か前、定演参加費をどうのこうのというメールが来ていたような気がする。
「定演参加費は、もうとっくに支払ったよ」
「え、まだもらっていませんけど」
「確か、支払った覚えがあるんだけどな~」
「いつ払ってくれたんですか」
「え~と、去年の9月頃だと思う」
「それは、去年の定演参加費でしょう。今年の分はまだです」
「えっ、参加費は毎年支払うの。そうだったかな」
「忘れっぽくなった振りをするのはやめてください。いままでも毎年出していたでしょう」
「そういわれると、なんとなくそんな気もする。でも、ほんとにまだ支払ってないの。もう一度納入者を確認してもらえないかな。君が忘れている可能性もあるし…」
「私のメモには、支払ってもらった人の名前と、日にちと、金額が書いてあります。合計金額と手持ち現金も一致しています。間違いはありません」
「そうか、女性は金銭に細か…いや、正確なんだな。以前の会計はどんぶり勘定だったけど」
「その時は、ごまかしたんですか」
「なんて失礼なことを。私はいつもちゃんと支払っているよ。ただ、支払いがちょっと遅れただけさ」
「支払いが遅れるのはいつもの事なんですね」
「そんなに決めつけることはないだろう。余裕がある時はすぐに払っているよ」
「いつごろ余裕ができるんですか」
「そういわれると困るな~。懐具合は個人情報だから人には言えないことはわかるよね」
「支払いが遅れているのは、余裕がないからなんですね」
「人の恥になるようなことを、あからさまに言わないでくれ。日本には、遠まわしに言うとか、たとえ話とか、ほのめかしとか、惻隠の情を示す温かい伝統があるだろう」
「わかりました。長老は尊敬していますから、余裕ができるまでお待ちします」
 ありがたい言葉をいただいたが、年金生活者には1万円は大きな金額だ。今月は合宿もある。すみません。もうちょっと待ってください。

(以上の会話は、こんな会話があったら楽しいな、と思って創作したもので、まったくのフィクションです。)

漢字の読み方
懐具合   ふところぐあい
惻隠の情  そくいんのじょう
  


Posted by 静岡マンドリン愛好会 at 20:54Comments(0)高橋長老の御教書