2012年09月06日
高橋長老の御教書 新編9
ありがたいお話であるから正座して読むよ~に
新編9 おみやげ
「長老、お土産です」と練習の合間に、S君が包装したお菓子箱を持ってきた。私に贈り物を持ってくるとは、最近珍しい、いい心がけの若者だ。
「ありがとう。しかし、私一人が貰うわけにはいかないよ。みんなにも分けたらどうだろう」
「あ、最初からそのつもりです。この辺の人にも分けたいので、包装紙を開けてくれませんか」
なんと、私に分ける準備をさせるために持ってきたのか。人使いの荒い奴め。いい心がけの若者という評価は取り消しだ。しかし、最初に私のところにお土産を持って来たのは、私を尊敬しているからに違いない。ここは我慢のしどころだ。
「おっ、『面白い恋人たち』か。どこに行ってきたんだい」
「いえ、『面白い』じゃなくて、それは『白い恋人たち』です。北海道に行ってきたんです」
「えっ、『白い恋人たち』は発売禁止になっていたんじゃないか。ひょっとして非合法の密造品じゃないだろうね」
「ええー、『白い恋人たち』は、もう再発売されているんですよ。今は、どこでも売っています」
「そうか、私が何年か前に北海道に行ったとき『白い恋人たちあります。せん』という看板が印象的だったが…もうそんな看板を見ることもできなくなったか」
「そもそも、あれは販売自粛で、違法な食品じゃないんですよ」
「思い出してきた。確か賞味期限を改竄したとか…だった」
「もともと6か月以上賞味期限があったのに、販促のために短くして…その賞味期限を越えたものを売っていた、ということだったと思います」
「まあ、こんな焼き菓子みたいなものは、密封しておけば10年ぐらい持つよ」
「でも、これはチョコレートが挟んでありますからね」
「茶色の紙で包んであるのが、チョコレートかな」
「いえ、白い包み紙がチョコで、それはホワイトチョコです」
「紛らわしい。まったく正反対の色にするのは、人をおちょくるためか」
「お年寄りや単純な人はまごつくかもしれませんが、僕らは平凡な常識を超えた新感覚の演出と考えます」
「お土産屋さんが、そんな深遠なことを考えるとは思えない。作るとき、単純に包み紙を間違えただけじゃないかな」
「どのみち、食べる時には捨てちゃうんですから、問題視するほどのことはないでしょう。もうひとついかがですか」
「志はありがたいが、まずはみんなに配ってよ。足りなくなった時、長老が余分に食べたなんて言われたくない」
「ほかの人達には別の包みを配っています。これは残りものです」
いい心がけの若者でないばかりか、私を尊敬していない若者だった。
漢字の読み方
改竄 かいざん
新編9 おみやげ
「長老、お土産です」と練習の合間に、S君が包装したお菓子箱を持ってきた。私に贈り物を持ってくるとは、最近珍しい、いい心がけの若者だ。
「ありがとう。しかし、私一人が貰うわけにはいかないよ。みんなにも分けたらどうだろう」
「あ、最初からそのつもりです。この辺の人にも分けたいので、包装紙を開けてくれませんか」
なんと、私に分ける準備をさせるために持ってきたのか。人使いの荒い奴め。いい心がけの若者という評価は取り消しだ。しかし、最初に私のところにお土産を持って来たのは、私を尊敬しているからに違いない。ここは我慢のしどころだ。
「おっ、『面白い恋人たち』か。どこに行ってきたんだい」
「いえ、『面白い』じゃなくて、それは『白い恋人たち』です。北海道に行ってきたんです」
「えっ、『白い恋人たち』は発売禁止になっていたんじゃないか。ひょっとして非合法の密造品じゃないだろうね」
「ええー、『白い恋人たち』は、もう再発売されているんですよ。今は、どこでも売っています」
「そうか、私が何年か前に北海道に行ったとき『白い恋人たちありま
「そもそも、あれは販売自粛で、違法な食品じゃないんですよ」
「思い出してきた。確か賞味期限を改竄したとか…だった」
「もともと6か月以上賞味期限があったのに、販促のために短くして…その賞味期限を越えたものを売っていた、ということだったと思います」
「まあ、こんな焼き菓子みたいなものは、密封しておけば10年ぐらい持つよ」
「でも、これはチョコレートが挟んでありますからね」
「茶色の紙で包んであるのが、チョコレートかな」
「いえ、白い包み紙がチョコで、それはホワイトチョコです」
「紛らわしい。まったく正反対の色にするのは、人をおちょくるためか」
「お年寄りや単純な人はまごつくかもしれませんが、僕らは平凡な常識を超えた新感覚の演出と考えます」
「お土産屋さんが、そんな深遠なことを考えるとは思えない。作るとき、単純に包み紙を間違えただけじゃないかな」
「どのみち、食べる時には捨てちゃうんですから、問題視するほどのことはないでしょう。もうひとついかがですか」
「志はありがたいが、まずはみんなに配ってよ。足りなくなった時、長老が余分に食べたなんて言われたくない」
「ほかの人達には別の包みを配っています。これは残りものです」
いい心がけの若者でないばかりか、私を尊敬していない若者だった。
漢字の読み方
改竄 かいざん